遭難の救助にあたっては、遭難者の心理と救助者の心理、さらには援助行動一般に関する知識が必要です。
●遭難者の心理
1. 衝撃期 | ⇒ | 2. 拒絶期 | ⇔ | 3. 絶望期 | ⇔ | 4. 離脱期 | ⇒ | 5. 回復期 |
喪失体験 | 混乱・否認 | 苦悶 | 諦め | 立ち直り | ||||
離別・死別 | 怒り・脱力 | 抑うつ | 無関心 | 人生観の変化 | ||||
呆然自失 | 自尊心低下 | 悲哀 | 自発性欠如 | 死生観の変化 | ||||
無感情 | 依存性 | 思考鈍化 | 社交性低下 | 人間的成熟 | ||||
興奮・錯乱 | 食欲不振 | 行動鈍化 | ||||||
意思決定不能 | 睡眠障害 |
2〜4の間を繰り返しながら、1. 喪失体験から 5. 立ち直りまで約半年から一年半を要する。長くて一生かかる。この間の異常な心理反応は、遅延ストレス症候群と呼ばれる。(注、類似の心理反応は低酸素症・低体温症・低血糖症・頭部外傷などにも見られる。PTSD・心的外傷後ストレス障害ともいう。)
症状として、神経症・心身症・自殺企画などがあり、事故を起こしやすくなったり、実際に事故死したりすることもある。
●救助隊員の資質
体力 | 急性・慢性の疾患がなく、健康である | |
技術 | 救助技術、搬送法、救急法 | |
知識 | 医学的知識、外傷の処置 | |
性格 | 協調性、細部に気を配る、惨状に圧倒されない |
●遭難者への配慮
1.遭難者の心理を「自然の反応」として認める。
2.事故の責任を追求したり、叱責したりしない。
3.救助活動に参加させる。
4.休養・食料を与え安心させる。希望をもたせる。
5.遭難者の質問に正直に現実を伝える、余計なことはいわない。
6.パニックや怒りを抑える。協調性のない者は現場から遠ざける。
7.意識のない人でも聞いていることがあるのを忘れない。
●遭難者にすべきでないこと。
1.冷淡、軽率な行動。
2.非現実的な楽観。
3.遭難者のそばで他人と話し込む。
4.権威主義的態度。
5.遭難者への過大な期待。
6.自尊心を傷つける(何もさせない)。
7.気を使いすぎる。
8.過剰な民主主義。
●遭難者の家族への配慮
1.遺体を粗末に扱わない。尊厳を守る。
2.遭難者の行動を批判しない。余計なことはいわない。
3.組織を笠に着た恩着せがましい物言いをしない。
4.現実の状況を正直に報告する。希望をもたせる。
5.事故関係者は自己弁護しない。誠意を尽くす。
6.経済的な話は先に明らかにしておく。
登山の医学、J.A.ウィルカースン編/赤須孝之訳(東京新聞出版局)より