ヒューマンエラー(Human Error)

トップページ>リスクと安全

 山岳遭難の内、最近は中高年の道迷いが非常に多くなりました。昔のように核心部で力尽きるとか、あえて困難に挑むといったタイプの遭難は少なくなりました。


●ヒューマンエラー(Human Error)

 人間の決定または行動のうち,本人の意図に反して人,動物,物,システム,環境の機能,安全,効率,快適性,利益,意図,感情を傷つけたり妨げたりしたもの。


●ミステイク(Mistake)、思い込みエラー

 計画を考える段階でのミス。やろうとしたことが、そもそも間違っていた。勘違い、早とちり。思い込み。認識や判断の段階でおかすミス。

 メンタルモデルMental Model(頭の中に形成されたモデル)仮想世界が不適切。人に注意されるまで分からない。→人の助けを借りる。自分がこれからしようとする事を周囲の人に話す習慣をつける。分かりにくい状況を作らない。 


●スリップ(Slip)、アクション・スリップ(Action Slip)、うっかりミス

 認知の制御過程における実行段階でのエラー。やろうとした動作は正しかったのに、ちゃんとできなかったミス。「無意識的」に発生するエラー。

 思っていない習慣がでる、妨害(電話・来客など)で混乱、意図の見失い(ラプス)、取り違え(スキーマSchemaの混線)、無意識的モニターの狂い。


●ラプス(Lapse)

 記憶の過程でのエラー。忘却、不正確な記憶、目標の見失い。物忘れ。


●注意型

 けつまずく、茶碗をひっくり返す、違うものを手に取る、電車に飛び乗ったら行先が違っていた、エレベーターから降りたら違う階だった。

 自己目標と外的制約とのずれ(目標の内容的ずれと、達成度のずれ)→自己モニタリング能力(Self Monitoring)の向上。考えていることを外へ(外化)出してみる。見えるようにする。


●記憶型

 忘れ物、スイッチの切り忘れ、後で電話しようと思って忘れる、予約をすっぽかす、葉書を入れるのを忘れる、何をしようとしていたかを忘れる、電話が掛かってきたり、来客があったりして、やりかけのことを忘れる。


エビングハウスの忘却曲線(Forgetting Curve)

 エビングハウスの実験によれば20分で約半分、1日で約1/3、6日で約1/4の記憶しか残らない。


●ミッション・エラー(Mission Error)

 目標の取り違えエラー。なにがより大切な目標かを見失う。出来もしないことをやってしまう。積極的行動によるエラーでありベテランが陥りやすい。

 自己顕示欲、自己優位性、自己重要感、自己効力感などに基づき使命感の取り違えから起きる。日本社会は、ハイ・コンテクスト(High Context)文化。暗黙の目標が支配している。したがって、しばしば、外部目標と内部目標との間にズレが発生する。


●オミッション・エラー(Omission Error)

 実行すべき行為(するべきこと)をしない。必要なことをしない。省略エラー。


●コミッション・エラー(Commission Error)

 やってはいけないことをする。実行したが正しく行わない。ミステイク(目標形成、意図自体の失敗)、スリップ(意図しないことを、してしまう失敗)、入力エラー(聞き間違い、見間違いなど)、媒介エラー(判断や記憶の間違いなど)、出力エラー(言い間違い、ボタンの押し間違いなど)


●基本的帰属エラー(Fundamental Attribution Error)

 他人の行動はその原因を性格に帰属し、自分自身の行動はその原因を状況に帰属させる誤り。自分の努力不足や能力不足に帰属させる人は同じ失敗を繰り返さないが。自分の失敗を他人のせいや、運・不運など外的状況に帰属させる人は同じ失敗を繰り返しやすい。


●賭博者の錯誤(Gambler's Fallacy)

 客観的確率が同じにもかかわらず同じ目が続くと、次は別の目が出そうだと感ずる現象。


●帰属の誤り(Attribution Error)

 宝くじが自分だけは当たりそうに思えたり、地震災害や交通事故が自分だけは起こりそうにないと思ったりする現象。


●出版バイアス(Publication Bias)

 出版された情報が検証されることもなく、独り歩きしてしまう現象。活字を無条件に信じやすい性質や、検証を省いたり、研究機関などの権威を信奉し、有利に事を運ぼうとしたりする意図による。あるいはその道の大家が特定の結論にまとめ上げた資料には比較的独断と偏見が入りやすいことによる。

 ※本来は研究の成果の内、有意な差が現れた論文(ポジティブな結果)のみ発表されやすく、ネガティブな結果は発表されにくいことによる。  参考⇒確証バイアス、プラセボ効果


確証バイアス

 自分がもっている仮説を確かめるときに、その仮説に合致する証拠を重視する傾向。


プラセボ効果(偽薬効果)

 プラセボ(placebo;プラシーボともいう)効果とは、薬効成分が入っていなくて薬理作用のないものでも、薬だと信じて服用すれば、それなりの効果があることをいう。新薬のテストに併用される。プラセボとは、「なぐさめる」または「喜ばせる」の意味で「平凡な手段あるいは薬剤」を意味する。


ネガティビティ バイアス(negativity Bias)

 人は望ましくない情報を重視し、そちらの方に重みのかかった印象形成を行う。また意思決定に際しては利得よりも損失に敏感になる。⇒Prospect Theory、ポリアンナ仮説、適応仮説


●ポリアンナ仮説

 人は一般に悪いことよりも良いことが多いと信じているので、ネガティブな刺激が目立つとする。


●適応仮説

 ネガティブな刺激は将来不快な結果をもたらす可能性があることから、それに注意を向けることが適応的といえる。


●合意性バイアス(False Consensus)

 自分の態度や行動が最も一般的なものであると考え、他人もみな自分と同じようにしていると信じる現象。


●リングワンデリング

 無難な選択を繰り返す内に、同じ条件に帰ってくる現象。視界の悪い森林地帯や、ホワイトアウトの中で発生しやすい。コンフリクトの処理が問題。局所最適性と全体最適性。


自然主義の誤謬

 自然はかくかくしかじかだから人間もかくあるべき。このように説明するのを自然主義の誤謬という。


●マーフィーの法則(Murphy's Theory)

 失敗する可能性のあるものは失敗する。(いくつかの方法があって、一つが悲惨な結果に終わる方法であるとき、人はそれを選ぶ) 雨の予報の時に傘を持ち歩くと、雨の確率が下がる。レジなどで隣の待ち行列のほうが早く進む。トーストを落とすと必ずバターを塗った方が下に落ちる。など、一部は科学的に証明されているものもある。潜在意識による経験的な法則。


●スレット・マネージメント(Threat Management)

 テキサス大学のDR.Helmreich教授が最近提唱している概念。何かに急がされたとき、あせっている時にエラーを起こしやすい。この場合、急がせる重圧が「スレット」となる。辞書によるとスレットとは「脅威又は脅威となるもの」とある。

 CRM(Crew Resouce Management)では「エラーの可能性を増す要素」の事で、「業務量の多さ」「時間的重圧」「上司のプレッシャー」「考え事」などがスレットに当たる。つまり起こりそうなエラーという火種に対して、油を注ぐのがスレットと言える。

 またスレットには外から発生するものと疲労やストレス、焦りなど内部から発生するものがある。これらは「Overt Threat」といい明らかに判るスレットである。これに対して「文化や風土」「組織の雰囲気」「解釈に差が出たり誤解を生むマニュアルや規則」のように普段は隠れていたりして目に見えないものもある。これらを「潜在スレット」という。

  詳しくは、「ミスをしない人間はいない」 芳賀繁著(飛鳥新社) を参照。

先頭へ戻る