■ カラビナ(Karabiner)
さまざまな用途があるが、端的にいえばロープやハーネスあるいはスリングや登降器を簡単に脱着させるためのゲートの付いた金属製の輪のことをいう。用途や形状により数多くの種類がある。
ゲートの曲がったカラビナ(ベントゲート)は、クリップしやすい代わりに、ロープが外れやすい欠点があり、フリークライミング(ウォール・人工壁)専用であって、アルパインやレスキューでは使用しない。レスキューでは安全環付カラビナ(ロッキングカラビナ)を標準とすべきだろう。支点に利用する場合には、二個逆向きに併用することをメーカーは要求している。
ツイストロック(オートロック)式のものは、片手だけではロープをクリップできないという欠点はあるが、スクリュー式と違ってロックをし忘れる心配がない。「ムンターヒッチ」などのロープの流れによって、自然にスクリューが逆回転してしまうといった危険性もない。ただしツイスト・ロックといわれる物の中には、冬季、手袋のままでは操作しづらく、スプリングを使用した構造は湿雪が付着し凍結した場合に作動しない恐れもある。
スクリュー式は意識して安全環を操作する必要があり初心者が使用した場合、安全環の操作忘れでゲートが開きっ放しになる可能性はあるが、片手で操作できてスクリューを引いておけば普通のカラビナとしても使用できるメリットがある。
また安全環自体は極めて薄い構造で80〜100sf(0.8〜1kN)の横荷重で簡単に破壊されてしまう。エイト環が捻れて体重を掛けた瞬間に破壊された報告もある。単にこれを使用すれば100%安全というわけではない。HMS型カラビナ(洋梨型)は大きくて、ロープが入れやすく有利。
さまざまなカラビナ |
■ ウィップラッシュ現象(Whip・lash)
墜落時ロープの摩擦によりカラビナが微振動し、ゲートが慣性のためにその振動に同調できず開いてしまうこと。ホイップラップ現象と呼ぶ人もいる。カラビナが岩に激突したような場合も含む。ゲートが開いたまま荷重が掛かると、閉まっている時の1/2〜1/3の荷重(20kN⇒10〜6kN)で破壊される。カラビナ破断の大きな原因。(瞬間的な現象であるため肉眼では観察されないが、高速度カメラで撮影できる) 主に、人工壁やゲレンデで多発している。
ゲートがワイヤー式であれば、その恐れは比較的少ないとされる。ワイヤー式のメリットは、軽い、ゲート間隔が広い、凍結に強い、ワイヤーの二点で接するのでロープが回転しにくいことなどが上げられ、デメリットとしてはロープやスリングがゲートに乗った場合の外れやすさ(ゲートの形状)とバネが強めに設定されていてクリップしずらい点が上げられる。カラビナの世界にも八方美人はないようだ。その点、最近のキーロックノーズのカラビナはアゴの掛かりが多く比較的安全とされ、ゲート部分に物が引っ掛かる窪みがないので扱いやすい。
なお、アルミニウム合金製の登捩用具は、落下(激突)した衝撃により、目に見えない無数の亀裂が発生する場合があるので、岩場で拾った他人の装備は使用しないこと。また、高強度アルミニウム合金は、熱処理が不完全であると、粒界腐食から応力腐食割れに至る危険性も高いので、腐食の激しいものも使用しないこと。
■ 確保器・ビレイデバイス(Belay device)
ATC・ATCガイド、ルベルソ・ルベルシーノ、グリグリなど確保(ビレイ)に使用する器具をいう。大きく分けてシングルロープ専用とダブルロープ対応に分けられ、シングルロープ用のものにはオートロック機能の付いたものがある。グリグリはシングルロープ専用でオートロックの機能があるが、ロープのフリー端にテンションを掛けていないと機能しない。間違った使用方法で事故が多発している。その点トランゴ製シンチは確実にロックする。
他にもトゥーキャン・ローリー・スマート・ブラムセ・SUM・SRCなどさまざまなタイプがあり一長一短。多くのビレイデバイスにはディッセンダーとしての機能もアッセンダーとしての機能も備わっているが、中でもシンチやエディのようにレバーの付いたタイプはディッセンダーとして使用した時、フリクションを自由に調節できて応用範囲が広い。
各種ビレイデバイス | 左がルベルソキューブ、右がATCガイド | |
シンチ(CINCH) | エディ(EDDY) |
■ ルベルソ(Reverso)とルベルシーノ(Rversino)
トップやセカンドの確保・アッセンダー・ディッセンダーとしても使用できる多用途グッズ。ロープ径により大小二種類を使い分ける。(直径11〜8mmのロープ用に適応するものをルベルソ、直径8.2〜7.5mmのロープに適応するものがルベルシーノ) 歯車状の溝により制動力がアップした改良モデルが発売されている。最近ATCガイドそっくりの「ルベルソキューブ」も市販されている。
懸垂下降時のセットの仕方を以下に示す。番号が進むほど制動力が増す。壁の傾斜や荷物の重量により選択する。ATCガイドも同様。エイト環と違ってカラビナの掛け方やカラビナの枚数によって制動力を微妙に調節できるのが大きなメリット。CDEではハーネスの環付きカラビナから制動器をいちいち取り外す必要がない。
ルベルソ・ルベルシーノ(軸が歯車状が新タイプ) | @スタンダード | |
A逆向き | Bカラビナ二枚使用 | |
Cカラビナ一枚併用(横) | Dカラビナ一枚併用(縦) | |
Eカラビナ二枚併用(縦) |
■ ATC・ATCガイド(ATC guide)
用途はルベルソと同様であるが、V溝内に浪模様のついたATCガイドが市販されている。セカンド墜落時のロック解除が容易となり、ロープ径の大小にも対応できるようになった。ほぼ万能の確保器具。
懸垂下降を「ATCガイド」を利用して行う場合、通常の1or2の使用方法で制動力の調整は可能であるが、ルベルソと同様に3or4も可能である。4の組合せでは制動力が強過ぎて体重の軽い人はロープを手で送り込んでやる必要がある。空中懸垂や荷物が非常に重い場合には有効だろう。ただし使用するカラビナの大きさにもよる。この方法では器具「ATCガイド」をいちいち安全環付カラビナから外すことなくそのままロープをセットできて落とす心配がないというメリットもある。
1 | 2 | |
3 | 4 |
■ ATCガイドとルベルソキューブ(REVERSO 3)
写真の右がATCガイド、左がルベルソキューブである。両者は機能的にも形状的にもほとんど差はない。ATCガイドは約100gに対しルベルソキューブは約75gと軽量化されている。ハーネスに取り付けた環付きカラビナに直接セットした場合、カラビナとの相性は穴が横向きのATCガイドの方が優れている。ただしスリングで延長し、手元にプルージックやシャントなどでバックアップを取るようなやり方では大差はない。
セカンド墜落時のロック解除用の穴はルベルソキューブの方が若干大きく、小さなカラビナなら直接通る大きさだ。ATCガイドでは無理。でも6〜7oのロープスリングやダイニーマスリングは問題なく通る。ダブルロープの通しやすさは前面が波打っているルベルソキューブの方に利がある。しかしながら差はごくわずかで、結局選択は好みの問題になるだろう。
物作りのエンジニアの立場からすれば、穴がすべて一方向に向いているルベルソキューブの方がはるかに金型が単純化できて大幅なコストダウンが可能だ。
形状的な差はごくわずかだ | 下部の穴が横向きか、縦向きか | |
ロック解除用の穴は大差ないが… | ルベルソキューブはカラビナが通る |
■ グリグリ(GRIGRI)とシンチ(CINCH)とエディ(EDDY)
グリグリもシンチもエディ(ローリー)も共にコントロールレバーのあるセルフロッキングビレイデバイスであり形状は良く似ている。エディの重量はシンチの倍以上もあるが、何かメリットはあるのだろうか?(グリグリGRIGRIは225g)価格はシンチ≒グリグリ<エディ(ローリー)
グリグリはロープ径Φ9.7mm〜Φ11.0mm、シンチはΦ9.4mm〜Φ11.0mm、エディはΦ9.0mm〜Φ11.0mm推奨。エディが一番細いロープに対応しているといえるが所詮コンマ何ミリの世界。エディにはブレーキカムのニュートラル位置があり、その時ロープはクライマー側・ビレイグリップ側共にフリーになる。意識的にカムを指で操作してやる必要がある。またエディにはコントロールレバーを引き過ぎた時のダブルロック(パニック防止)機能がある。
形状 | 名称 | ブランド | 対応ロープ径(mm) | 重量(g) | ||
グリグリ | GRIGRI | ペツル | PETZL | Φ9.7〜11.0 | 225 | |
シンチ | CINCH | トランゴ | TRANGO | Φ9.4〜11.0 | 175 | |
エディ | EDDY | エーデルリッド | EDELRID | Φ9.0〜11.0 | 360 | |
ローリー | ROLLY | アンスロン | ANTHRON | Φ9.0〜11.4 | 360 |
※おそらくエディ=ローリーであろう。
シンチ(CINCH)は175g | エディ(EDDY)は360g | |
ロープを通す | コントロールレバーの側 | |
ブレーキカムを操作する必要あり | Φ9mmで懸垂下降の時 | |
Φ6mm×2本なら可能 | Φ5.5mm×2本でも |
■ 制動器・ディッセンダー(Descender)
日本語では制動器であり懸垂下降や確保に使用する。確保器や「ムンターヒッチ」でも代用でき主にエイト環を指す。ただしエイト環はロープが捻れてキンクしやすく、ロープがアゴからずり上がり「ヒバリ結び」になって空中でロックする恐れもある。その点、両脇に角のあるものはその心配はない。しっかりした(広い)スタンスさえあれば、「ひばり結び」を積極的に仮固定の手段として利用する方法も考えられる。あくまでもテンションを完全に抜ける手段があれば、という前提である。
制動力の調整方法としては、ロープを二重に巻く方法やロープが極めて細い場合にはエイト環を逆向きに使用したり、小さい方の穴だけを利用する方法などがある。しかし・・・実際にやってみれば分かるが、それでもロープが流れ過ぎたり流れがぎこちなかったり・・・。制動力を微妙に調整できないのがエイト環の最大の欠点といえる。
以上、エイト環の欠点は@ロープがキンクする。Aフリクションの調整がきかない。Bロープをセットする時にいちいちロッキングカラビナから本体を取り外す必要がある。Cロープがアゴからズリ上がりヒバリ結びになってロックする。などが挙げられる。ただし、ミゾーのジェットウーマンに限ればこれらの欠点がほぼ解決されているといえる。
ミゾー(MIZO)のジェットマン(Jetman) | ||
ディッセンダー(Descender) | ↓ | |
↓ | 二重掛けで制動力を調整 | |
「ヒバリ結び」でロック | 突起に掛けて制動力を調整 | |
SMCのレスキューエイト(11mmダブル) | 巻き付けてロック | |
SMCのエスケープエイト(8mm補助ロープ) | 6mm補助ロープ・ダブル | |
⇒ | ||
エイト環による懸垂下降 | フレイノとシャントによるバックアップ | |
ケブラーロープΦ5.5oシングルの場合(逆向き) | エイト環の小さい方の穴だけ利用する | |
ロープの二重掛け | エイト環の逆使用と二重掛け | |
⇒ | ||
ミゾー(MIZO)のエイト環(ジェットウーマン) | ロープがキンクしないのがメリット | |
Φ9oロープダブルの場合@ | Φ9oロープダブルA |
■ ハイドロボット(KONG HYDROBOT)
ディッセンダーといえば主としてエイト環を指すが、エイト環はロープがキンクしやすくフリクションの調整が難しいという欠点がある。このハイドロボット(HYDROBOT)はロープ径がΦ6〜Φ12oと広範囲に対応し、かつさまざまなロープのセット方法がある。懸垂下降中にセット方法を変えてフリクションを調整することも可能。ロープはダブルでもシングルでも対応可能で、ロープをセットする時にいちいち本体を環付きカラビナから取り外す必要がない。アッセンダーとしても使える。
ただし、ロープを何回も巻き付けた場合ロープが外れやすく、単純なセット方法ではフリクションが得られにくいという欠点がある。その時はカラビナや他のディッセンダー要素を組み合わせれば良い。一方、重量が一般的なエイト環の倍であるから用途は限られ、ケービングやツリーイング(ツリークライミング)のように空中懸垂が頻発するような状況では有利かもしれない。
ロープがシングルの場合@ | ロープがシングルの場合A | |
ロープがWの場合@ | ロープがWの場合A ロープが外れやすい | |
平均的なエイト環は約90g | ハイドロボットはエイト環の約2倍の重量がある | |
カラビナを添えた例 | シンチでバックアップを取った例 | |
ロープがシングルの場合B | ロープがシングルの場合C | |
ロープがWの場合B | ロープがWの場合B | |
極めて細いロープの場合@ | 極めて細いロープの場合A | |
⇒ | ||
ディッセンダーとして使用 | アッセンダーとして使用 |
■ 懸垂下降の失敗
懸垂下降の失敗は致命的な事故に繋がる例が多い。下り始めにバランスを崩したり、降り口で器具が岩などに圧迫され自由が利かなくなったり、衝撃を受けて安全環が破損したり、信頼できない支点を選んだりすることで発生する。支点は体より高い位置に設けると操作が楽になる。支点には衝撃荷重をかけないこと。私はシャントでバックアップを取ることにしているが、それでも中間支点のカラビナ回収時にバランスを崩し、うっかりシャントを握って1mくらいズリ落ちたことがある。人には本能的に物を掴む反射反応があるからで100%安全とは言えない。頭では分かっていても握った手を離すにはそうとうの勇気がいる。次に多いのはロープの回収不能である。ロープは必ず下側のロープを引くようにセットする。ロープに余裕がなかったり、しなる枝を支点にしたような場合に、着地した後ロープが跳ね上がり手が届かなくなる可能性もある。
※懸垂下降のセットをする前に必ず牛のしっぽ(カウテール)などでセルフビレーをとり、懸垂下降の準備が完了した時点で、実際にロープにぶら下って支点の強度や器具のセット方法などに間違いがないか確認した上で、はじめてセルフビレーを解除する。(※岩場に生えている潅木は根が非常に浅いので注意が必要。) 連続して懸垂下降をする時は、次の支点を工作するまでの間がリスクの隙間となる。セルフビレーを取ってから仮固定を解除する。練習はゲレンデばかりではなく、実際に藪の中やねじれた壁も経験しておく。
ロープ回収時の失敗(引くだけでは外れない) ⇒下側のロープを引く。 (※注 リングボルト一本で下降しないこと。) (※注 リングに直にロープを通さないこと。) |
■ スワミベルト(Swami belt)
簡単な沢登りや山菜取りなどにおいて、ハーネスを持参するほどでもなく軽量化を優先したい時に代用する。ただし実際にテンションが掛るとズリ上がり胸や腹部を圧迫するので勧められない。※レッグループのある通常のハーネスの方が衝撃分散に関し安全であることはいうまでもない。
スワミベルト(Swami belt) |
■ 登高器・アッセンダー(Ascender)
ユマールのように棘があって、上にずらすことはできても下にはロックがかかるものをいい「プルージック」などのフリクションノットでも代用できる。タイブロックやロープマンなどは一人に一個づつあればいざという時に重宝する。シャントはツインロープ時のアッセンダーとして使用できるほかユマールのように棘がないので懸垂下降時のバックアップとして利用でき、デッセンダーとしても利用できる。ATCガイドやルベルソにもそのような機能がある。(※シャントやロープマンはパニック時、追従用の細引きを引いておればロックしない。もちろんシャントは本体を握りしめていてはロックしない。バックアップとして使用する時には注意が必要だ。)
※荷重試験によればタイブロック(アッセンダー)に過大な荷重が掛った時、表皮が剥けてストランド(ロープの芯)のみ残る現象が見られ、実際に事故も発生しているようだ。大きな衝撃荷重の加わるような使用方法は極めて危険である。更にタイブロックには使用するカラビナの断面を選ぶという不都合もある。
アッセンダー(Ascender) | シャントを使った懸垂下降(登り返しも可) |
■ プーリー(Pulley)
さまざまな形状があり、引き上げ時に使用すれば、摩擦抵抗を軽減しロープの損傷も防ぐ。プーリーのタイヤ単体でも市販されているが使用するカラビナの形状を選ぶ。ミニトラクション(MINI TRAXION)はアッセンダー機能を内蔵したもので引き上げや自己脱出に高機能を発揮する。プーリーの最大の弱点は軸とケースのカシメ部分であるから、ここの所に注意する。(※端的に言えば軸が外れてもロープが脱落しない形状のものを選択する。)Wロープによる使用も考えられるので、Wプーリーが一個あれば便利。
プーリーとミニトラクション | 軸のカシメ部分に注意 | |
プーリー | Wプーリー | |
ミニトラクション(Mini traxion) |
||
ミニトラクションとWプーリー(1/5システム) |
■ マイクロトラクション(Micro traxion)
ミニトラクションと機能がほとんど変わらず重量が半分以下のマイクロトラクションが発売された。ミニトラクションで使用可能なロープの径は8≦Φ≦13、一方マイクロトラクションでは8≦Φ≦11である。クライミングではΦ≦11に限定しても何ら支障はない。すごい軽量化であリ、常時持ち歩いても負担にならない。タイブロックと対で使用すれば引き上げや自己脱出が容易になる。
マイクロトラクション(Micro traxion) | プルアップや登り返しに使用できる | |
ミニトラクションは170g | マイクロトラクションは80g | |
構造は若干異なるが機能は変わらない |
■ フレイノ(Freino)
懸垂下降のバックアップを取ったり制動を掛けるのに便利なように開発された。ハーネスにセットしたカラビナの安全環をいちいち操作しなくて済むのが大きなメリットで、便利なだけでなく安全性も保てる。
ワイヤーゲート部分(ブレーキングスパー)でロープをワンターンして制動をかける。折り返したロープを他のロープと共に片手でグリップ(グリップビレイ)すれば、もう一方の手がいつでもフリーになり、ロープの絡まりをほぐしたり、藪にからんだロープを直したり、ちょっとした作業をするには好都合。商品説明では「グリグリ(Grigri)やエイト環などを使ってシングルロープで使用」と説明があるが、ダブルロープにも使用可能。懸垂下降に補助ロープを使用した場合、滑り過ぎる時はフレイノとデッセンダーをセットにして(フレイノを逆さに使用して)ツーターンすれば制動力が増す。(フレイノを2個使用)
ただしワイヤーゲート部分(ブレーキングスパー)に他の金属製の器具を直接セットするのは注意が必要。(スリングなら問題ない。)カラビナとカラビナを直接・クサリ状に連結した場合に、捻れ(ネジレ)により簡単にカラビナが外れてしまう現象があるからである。(※環付きカラビナどうしの連結であれば問題ない。)したがって、背中のブレーキングスパーといわれる部分にエイト環やATC・ルベルソなどを直接セットし全体重を掛けるような使用方法は避けるべきだろう。シャント(Shunt)によるバックアップやグリグリ(Grigri)などを使った確保には有効。懐(フトコロ)が狭いわりにワイヤーゲート部分が広いのは気に掛かる。
ネジレに要注意 | フレイノでロープをワンターンして制動 | |
フレイノとシャントを懸垂下降時のバックアップに利用 | フレイノでワンターンしてグリップビレイ(Grip belay) | |
フレイノを逆に使用し、ツーターンして制動 | フレイノで仮固定 | |
⇒ | ||
フレイノ(Freino)を使ったクイックドロー(ヌンチャク) | フレイノ(Freino)を二個使ってツーターン |
■ リボルバー(Revolver)
本来は、ヌンチャクの片方に使用し、蛇行するロープの抵抗を低減するために開発されたものだが、ロアーダウンに使用することも可能。ただし、環付きでないものは取扱説明書に注意マークが付いている。確かにプーリー一個分の重量を軽減できるメリットはある。プルアップシステムの中で利用すれば摩擦抵抗を低減できる。(※最近、安全環付きの「ロッキングリボルバー」が市販された)
各種リボルバー(Revolver) | プルアップシステムの中で利用すれば有効 | |
1/3システム(登り降り自在) |
■ 補助ロープ(Auxiliary rope)
エーデルワイスのカタログ値から補助ロープの引張り強度(許容)を推定した。下表は破断強度であるから、結び目による強度低減率(ダブルフィッシャーマンであれば35%)と紫外線や実使用などによる劣化(50〜70%⇒参考、ピット・シューベルト著『改訂版・生と死の分岐点』)及び、衝撃荷重を考慮した安全率(5〜6)を計算に入れなければならない。言葉を変えれば、実使用においては新品の3%程度の強度しか見込めないことになる。
6oの補助ロープの例でいえば、7.1×0.65×0.3×(1/6)=0.23kN スリングとして使用することを前提とすれば×2本となるので0.46kN=46.9kgfとなり、非常に痩せた人ならかろうじて耐えられる計算となる。懸垂下降の支点としての利用に限定すれば安全率を2として、7.1×0.65×0.3×(1/2)×2=1.38kN=140.8kgfとなるので余裕である。
太いロープと細いロープを接続して利用した場合、全体の強度は細い方の強度に従属する。したがって9oのダブルロープの強度を100%生かそうとすれば22kNのスリングを使用する必要があり、7oのロープスリングでは二箇所、6oのロープスリングでは三箇所の支点を必要とする。
※ここで注意すべき点は、メインロープと補助ロープの強度の差であるが、確かなデータが無いので、とりあえず径が同じなら強度も同じとしておこう。そして紫外線などによる劣化も結び目による強度低減率も同等と仮定しての話である。
ロープ径(o) | 破断荷重 (静荷重) |
実際の許容荷重 (衝撃荷重) |
||
Kgf | kN | Kgf | kN | |
Ф1(ナイロン) | 35 | 0.3 | 1.1 | 0.01 |
Ф2(〃) | 80 | 0.8 | 2.6 | 0.03 |
Ф3(〃) | 180 | 1.8 | 5.8 | 0.06 |
Ф4(〃) | 320 | 3.1 | 10.4 | 0.10 |
Ф5(〃) | 500 | 4.9 | 16.3 | 0.16 |
Ф6(〃) | 720 | 7.1 | 23.4 | 0.23 |
Ф7(〃) | 980 | 9.6 | 31.9 | 0.31 |
Ф8(〃) | 1,280 | 12.5 | 41.6 | 0.41 |
Ф9(〃) | 1,620 | 15.9 | 52.7 | 0.52 |
Ф5.5(ケブラー) | 1,800 | 17.6 | 58.5 | 0.57 |
Ф6.5(フローティングロープ) | 1,100 | 10.8 | 35.8 | 0.35 |
Ф7(ナイロン・プルージック) | 980 | 9.6 | 31.9 | 0.31 |
■ プルアップ・システム(Pull up system)
ロープによる引上げシステムをいう。滑車の原理を応用したもので、1/2と1/3を理解すれば、それの組み合せである1/6と1/9は容易。1/5と1/7は1/3が進化したものであり、1/2と1/6の引上げではロープ長さの半分しか引上げできない。いずれにしても、ロープとプーリーとアッセンダー要素の組み合わせであって、状況によりカラビナやフリクションノットで代用できる。ただし相応のロスが発生する。
また、引き上げだけでなくシステムを上下逆さにして固定端を自分のハーネスに装着すれば、そのまま自力での登り返しに利用できる。
1/2システム | 1/3システム | |
1/5システム | 1/6システム | |
1/7システム |
このような複雑なことをしなくても、単にプーリーやWプーリーを使用してロープを蛇行させるだけでも同様の効果が得られ、ミニトラクションが有効。1/3、1/5、1/7とその倍数にあたる1/6、1/10、1/14が容易。シャントを使えばテンションの掛ったロープを自在に前進・後退できるというメリットもある。ただし1/7や1/14はシステム内のロープの伸び(遊び)が大きく実用価値は低い。引き上げにはダイナミックロープは適さない。スタティックロープあるいはセミスタティックロープを使うのが有利。
Nフォースアッセンダー・ミニトラクション・リボルバー の1/3システム |
シャント・ミニトラクション・Wプーリーの1/3システム | |
シャント・ルベルソを使った1/3システム | シャント・ATCガイドを使った1/3システム | |
シャント・ミニトラクション・プーリーの1/6システム | ユマール・Wプーリー・ミニトラクションの1/5システム | |
1/5システム | 1/5システム | |
1/10システム | 1/10システム | |
プーリーを使った1/14システム | 1/14システム |
■ mammut rescyou
MAMMUTからアッセンダー要素3コとトリプルプーリー2コを組み合わせた新しいクライミングデバイスが発売されている。簡単に1/6システムが構築できる優れものだ。クレバスに落ちた登山者の引き上げを想定しているようで、80kgの人でも15kg以下で引き上げられる計算だ。救助の現場でややこしい複雑なシステムを構築せずに済む。しかもコンパクト。これがあれば全く手掛かりのないハングした壁でも自力で登り返すことも可能である。ただし、恐ろしく時間がかかる。
mammut rescyou | mammut rescyou | |
mammut rescyou | mammut rescyou |
■ ガルダーヒッチ(Garda hitch)
アッセンダーがない場合に引き上げ時のロック機構として利用する。同じ形状のカラビナ二枚を使用し、写真では二枚のカラビナの間を通した右側(下側)のロープを救助者(引き上げ者)が引く。自力歩行可能な負傷者の引き上げに有効。他のアッセンダー要素との組み合わせにより、1/3システムの構築が容易。「ガルーダ」ともいう。
似たものに「ビエンテ」がある。こちらはカラビナを背中合わせに使用する。ロープの絡み具合は両者全く同じであるが、「ビエンテ」は単に上のロープで下のロープを押さえ付けるのに対し、「ガルダーヒッチ」ではロープを二枚のカラビナで締め付けると共に下のロープも押さえ付ける。機能的に両者の差は無い。
カラビナ一枚を使用する「ロレンツヒッチ」も同様であるが、長円形のカラビナではロープがクルクル回転するだけで、角度のきついD型カラビナでないと機能しない。ロックの解除は下側のロープをカラビナから外すことにより行うが、ビエンテの方がやりやすい。
ガルダーヒッチ(ガルーダヒッチ) | ビエンテ(Biente) | |
ロレンツヒッチ(ロレンツェ) | ロレンツヒッチ(ロレンツェ) |
■ カウヒッチ(Cow hitch)
デイジーチェーンをハーネスにセットするときに利用する。(牛のしっぽ) スリングを立ち木などに固定する時にも利用できる。輪になったロープを解かずに、そのまま固定できるのが利点。結び目を締まる方向に回転させてセットするのがコツ。ただし立ち木がしなって支点がスッポ抜ける事故も発生しているので、次の「イワシ」を憶えておくと良い。スリングの長さが十分にあれば、立ち木の場合はインクノット(クローブヒッチ)の方が下にずり落ちないので便利。「ガーズヒッチ」または「ひばり結び」ともいう。この「カウヒッチ」の進化したものが「プルージック」である。
ただし、牛のしっぽ(カウテール)としてデイジーチェーンを使用するときは、縫い目の強度は極めて低いので小さなループにカラビナを通して長さ調節するのは注意を要する。特に衝撃加重が予想されるような場面では危険。
カウヒッチ(Cow hitch) |
■ いわしを切る(Cut sardine)
「ひと結び」を連続して行うこと。⇒これにより、最初の結び目だけに荷重が集中せず、結び目のスッポ抜けを防止できる。(群馬岳連の用語)
「ひと結び」は「一重結び」「かけ結び」、あるいは「シングルヒッチ」「ハーフノット」ともいう。二回連続して行えば「インクノット」になる。
「いわし」の連続 |
■ わりを入れる
二つに分けた雑木の束などの間にロープを通すこと。⇒これにより結び目が締まり、簡単にスッポ抜けることがなくなる。しっかりした支点を作るときは更に「いわし」を組み合わせる。(群馬岳連の用語)
様々なやり方があるだろうが、単に間を通すだけでなくその前後を縛る必要がある。そのためには最初からスリングの一端を柴の間に通しておく方法が便利。最初にカウヒッチで縛るとやりにくくなる。簡単なことほど難しい。
途中でわりを入れる方法 | 初めから間に通しておく方法 | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
イワシを切って完了 | ↓ | |
(※途中で巻く方向を変えないこと) | ||
イワシを切って完了 |
■ シートベンド(Sheet bend)
スリングとスリングを繋ぐ結び方。シート搬送をする時に多用する。「もやい結び」や「一重つぎ」と同じ構造といって良く、長さは自由に調節でき単純明快で確実。ロープが濡れていたり、信頼性を増すときには二回巻いてからくぐらせる、いわゆるダブルシートベンドを行う。
↓ |
↓ |
↓ |
■ ダブルシートベンド(Double sheet bend)・クロスシートベンド(Cross sheet bend)
シートベンドの信頼性を増すために結び目を二重にしたものを「ダブルシートベンド」「二重つぎ」という。写真のように単に二重に巻くよりも、外側を一回巻いてから、潜らせるほうが解けにくい。これをクロスシートベンドという。荷重が掛かって絞まり込んだ後では、一重のシートベンドよりも多重のシートベンドの方が解きやすい。
単に二回巻く方法 | 一度外側を巻いてから内を通す | |
↓ | ↓ | |
ダブルシートベンド(Double sheet bend) 二重つぎ |
クロスシートベンド(Cross sheet bend) |
■ インクノット(Ink knot)
ロープの中間をカラビナに固定する時に使用する。シート搬送でシートの中間を摘み上げて中に小石など入れて、張る時にも利用する。「クローブヒッチ(Clove hitch)」「マスト結び」「巻き結び」「かこ結び」「徳利結び」「うのくび結び」などともいう。片手ですばやく作れるように練習しておけば重宝する。(左・右どちらの手でも即座に作れるようにしておく)
ただし、結び目が緩んでロープの一部がカラビナのゲートにかかった状態で、逆方向に荷重が掛かると外れる恐れがあるので結び目は締めておく。また落石の多い場所ではロープ切断時に結び目が解けて外れてしまう危険性もある。その点バタフライノットの方が信頼性は高い。セルフビレー用として使う場合には、ロープの向きに注意する。トリプルインクノットを使用すれば緩みにくく、かつ解きやすい。「インクノット」というのはインクビンの口を縛ったからである。
フィックスロープに結ぶ時 |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
インクノット(Ink knot) |
立木に結ぶ時 | シート搬送や背負い搬送のとき | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
さらに確実にしたい時は多重き結びとする | ↓ | |
雨具を使った背負い搬送やシート搬送に利用する |
■ トリプルインクノット(Triple ink knot)
インクノットにもう一巻き加えたもの、すなわちひと結びを三回連続したものをいう。インクノットによる固定より緩みにくく、かつ解きやすい。
トリプルインクノット(Triple ink knot) |
■ 多重巻き結び(Multiple ink knot)
「インクノット」=「巻き結び」であるが、ロープが細い場合に、ロープを何度か巻き付けてから「巻き結び」を行えば、しっかりした結び目になる。一箇所で「イワシ」に近い効果が得られる。「巻き結び」の単なる繰返しではない。(※巻き結びはプルージックを指すこともあるので注意)
二重巻き結び | 三重巻き結び |
■ ムンターヒッチ(Munter hitch)
「半マスト結び」「イタリアンヒッチ」ともいい、懸垂下降時にエイト環がない場合の代用となる。ただしロープがキンクしたり痛みやすいので積極的に利用されることはない。安全環付きカラビナでは、ロープの流れによってスクリューが逆回転し解放される恐れがあるのでゲートと反対側にセットする。「のの字」などともいう。さらに制動力を求める時はダブルムンターヒッチ、あるいはカラビナムンターヒッチを行う。
ムンターヒッチ(Munter hitch) | ムンターヒッチ(Munter hitch) | |
ダブルムンターヒッチ@(Double Munter hitch) | カラビナムンターヒッチ(Karabiner Munter hitch) | |
ダブルムンターヒッチA(Double Munter hitch) |
■ ダブルフィッシャーマンズノット(Double fisherman's knot)
ロープスリングを作成する時に使用し、交差した二本のロープの両端にダブルオーバーハンドノットを生成する。結び目を硬く締めておくことが大切。使わない内に結び目が緩んで、知らぬ間に末端が短くなっている例が多い。末端はロープ径の10倍以上は伸ばすこと。スリングは、7mm以上の径のロープを利用するのが安全。「二重テグス結び」ともいう。ただしスリングは伸縮性のないテープ状のソウンスリングを使用するのが一般的である。
なお、スリングを単に首にかけたり、左右両側にタスキ掛けにしたり、長いスリングを二重・三重の輪にしてからタスキ掛けにしたりするのは止めること。墜落した拍子にスリングの一部が岩角などにひっかかり、首を圧迫する恐れがあるからで、実際にそのような事故も発生している。
ダブルフィッシャーマンズノット |
↓ |
↓ |
余長はロープ径の10倍以上とする |
■ トリプルフィッシャーマンズノット(Triple fisherman's knot)
細いロープでダブルフィッシャーマンズノットを行った場合、荷重が掛ったのち解き難くなる場合がある。そのような時には多重フィッシャーマンズノットを利用すれば良い。
トリプルフィッシャーマンズノット |
↓ |
↓ |
余長はロープ径の10倍以上とする |
■ ダブル・フィギュアエイトノット(Double figure eight knot)
ロープをハーネスに結び付ける時に使用する。「二重8の字結び」略して単に「エイトノット」ということも多い。結び目をきれいに整え、それぞれのロープ端(4本)を一本ずつ交互に強く引いて結び目をしっかりと締め付けておくことが肝要。余ったロープはダブルオーバーハンドノットで末端処理をする。このとき結び目は互いになるべく近づける。ハーネスに取付ける場合には、必ずウエストベルトとレッグループの両方に通すこと。
懸垂下降時のロープとロープの接続に利用すると、ロープ回収時に結び目が岩角を通過する時に結び目が起き上がり、岩角などに引っ掛かることが少ないので有利とされる。ただし、結び目が雑であり(緩い)、余長が少ない場合には、結び目が反転(フリップ現象)して解けてしまう事故が報告されている。(余長は25センチ以上必要) またロープの末端処理を間違えて、違う目に入れて折り返し、簡単に解けてしまった事故も多数報告されている。したがって間違えるくらいなら最初からやらない方が良く、末端処理は必ずしも必要とはされていない。
※注意点は写真では逆になっているが、引側のロープがループを押さえる時に上側に来る事である。でないと繰返し荷重が掛った時、他方のロープが遊んで(緩んで)しまう。
ハーネスに結ぶとき (フィギュアエイト・フォロースルー) |
腕に巻いて作る方法(支点にするとき) (フィギュアエイト・オンアバイト) |
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↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | 二重8の字結びの完了 | |
二重8の字結びの完了 |
■ ナインノット(Nine knot)
エイトノットより半回し多く巻く。これにより荷重が懸った後でも更に解きやすくなる。
エイトノット(Eight knot) | ナインノット(Nine knot) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
エイトノット(Eight knot) | ナインノット(Nine knot) |
■ ダブルループ・フィギュアエイトノット(Double loop figure eight knot)
通常、「二重8の字結び」とは上記の写真のもの(結び目が二重)を指すが、実際には輪が二重になったものを指すことがある。輪の長さに長短を設けシート搬送時の流動分散や負傷者を背負って下降する場合(二人同時に確保する時)などに利用する。「二つ頭」「二本足」「ラビットノット」「うさぎの耳」などともいう。
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
流動分散 |
■ トリプルループ・フィギュアエイトノット(Triple loop figure eight knot)
ハーネスやスリングが無い場合に、輪の長さを調節して二つの輪を負傷者の両腿に、もう一方の輪を負傷者の肩から脇に通せば、痛い思いをせずに安定した引き上げを行うことができる。ただし自力歩行が可能な場合にのみ有効。三重8の字結び。
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
メインロープを使った確保 |
■ 四重8の字結び(Fourfold loop figure eight knot)
二重8の字結びを二回やれば、四重8の字結びができる。二つの輪を両腿に、残りの二つの輪を両肩にタスキがけにして掛ければ、非常に安定した引き上げが可能。ただし、ザイルが片方に偏ると首を絞め付ける恐れがあるので避けた方が無難。
四重8の字結び |
■ ブーリン結び(Bowline)
「ボーライン(Bowline)」または「もやい結び」ともいう。素早く結べて容易に解けることから信頼性の高い結び方だが、輪を広げる方向に荷重(リング荷重)を掛けると解けやすく現在では自己確保用としては、ほとんど使用されていない。結び目に左右勝手や良く似た変形パターンがあるので間違えやすく、使用しているうちに緩みやすいことも原因。
立ち木にメインロープで直に支点を取るときなどに使用し、その時は、あらかじめ立ち木にロープを二重に巻く(ラウンドターンを行う)か「インクノット」を行った上で結べば結び目がずれることはない。安全性を考えた場合「ダブルブーリン結び」と「ダブルフィシャーマン」を組み合わせる。(※二重もやい結びとは、輪が二重になったものを指すこともあるので注意)
いずれにしても、立ち木に支点を取るときは、多少手間が掛かっても、インクノット+二重8の字結びのほうが安心できる。また、スリップノットからブーリン結びに変形させる方法を利用すれば結び目の遊びを減らし、きつく結ぶことが可能。
スリップノット(Slip knot) | ||
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
末端処理をして完成 | ブーリン結び(もやい結び・一重つぎ) |
■ ダブルブーリン結び(Double bowline)
結び目を二重にして「ブーリン結び」の信頼性を高めたもの。
Wブーリン | 末端も二重にすればW&Wブーリン | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
Wブーリンの完成 | ↓ | |
W&Wブーリンの完成 |
■ ダブルループ・ブーリン結び(Double loop bowline)
ダブルといっても、どの部分がダブルになるかによって、形状はまったく異なる。「二重もやい結び」ともいう。
二重もやい結び |
■ トリプルループ・ブーリン結び(Triple loop bowline)
「三重もやい結び」ともいう。
三重もやい結び |
■ インクノット+二重8の字結び
立木などに強固な支点を設置する時に使用する。結び目が移動しない(ズリ落ちない)ので便利。インクノットではなく単に二回巻く(ラウンドターン)でも効果がある。ハーネスにそのようにして装着している人も見掛ける。これらはフィギュアエイト・フォロースルーといわれ、一重のエイトノットを作った後にそれを逆からなぞるやり方(フォロースルー)で二重8の字結びを作成する。
巻き結び(インクノット)やミッドシップマンズヒッチともやい結び(ブーリン)の組み合わせが実用的。
インクノット+二重8の字結び | ラウンドターンとエイトノット | |
ミッドシップマンズヒッチとブーリンの組み合わせ | ラウンドターン(Round turn) |
■ テープ結び(Tape bend)
「テープベンド(Tape bend)」「リングベンド(Ring bend)」「ウォーターノット(Water knot)」「ふじ結び」などともいい、オーバーハンドノットでロープどうしを結束する方法をいう。テープスリングを作るときに使用するが、結び目が岩角に引っ掛かるなどして、解ける事故が多発している。両端は最低でも5〜6cmは伸ばし、末端処理が必要。既製品(ソウンスリング)を使用するのが無難である。末端はビニールテープなどで固定する。セルフビレイのバックアップ用にはデイジーチェーン(オムニスリング)の先にカラビナ2枚をセットしたものがあれば便利。いわゆる「牛のしっぽ」である。
なお、スリングを単に首に掛けたり、長いスリングを二重・三重の輪にしてから肩から脇へタスキ掛けすることが良くあるが、墜落した衝撃で首を締め付けられる恐れがあるので避ける。両側へタスキ掛けするのも同様。
テープ結びの考え方を拡張すればエイトノットやナインノットの利用も考えられるが、テープでこれを実施するには引側のテープを結び目の上側になるように結ばなければ均等には締まらない。トリプルエイトノットは釣りで使用される結び方であり、クライミングでの利用価値は不明。単体では仲仕結びあるいはステベドア・ノット(Stevedore knot)といわれている。
テープ結び(Tape bend) | エイトノット(Eight knot) | |
テープ結びの末端処理 | ナインノット(Nine knot) | |
エイトノット(Eight knot) | ↓ | |
エイトノットの末端処理 | トリプルエイトノット(Triple eight knot) |
■ スクエア・ダブルフィッシャーマンズノット(Square double fisherman's knot)
二本のロープを結束する方法。スクエアノット・リーフノット(本むすび)の両端をそれぞれダブルオーバーハンドノットで末端処理したもの。単にスクエア・フィッシャーマンノットとも呼ばれる。荷重が掛った後でも解きやすい。
スクエアノット(本むすび) |
スクエア・ダブルフィッシャーマンズノット |
■ ダイニーマスリング(Dyneema sling)
左は従来の20o幅のテープスリング、右は7o幅のダイニーマスリング。共に強度は22kN。極小のカラビナにセットして比較した。従来のテープスリングではゲート付近に荷重が掛かるのに対し、ダイニーマスリングではその恐れは少なくクローブヒッチをしてもまだ余裕があり、カラビナの強度を最大限に引き出せる。
右の写真はユマールとプーリーとミニトラクションによる1/3引き上げシステム。プーリーのタイヤ単体で市販されているが、それに適合するカラビナは少ない。この部分をダイニーマで済ませるとプーリーのフレームとカラビナが省略できる。(この1/3システムは自力での登り返し「自己脱出」に利用可能)
ただしスリングを全てダイニーマに置き換えてしまうのも考え物だ。簡易ハーネスや自己脱出に利用する時には幅の広い方が有利な場合もある。
(ダイニーマは摩擦抵抗が少なく融点が低い。したがって雑木などに支点を設けた時は滑りやすく、プルージックなどのフリクションノットに利用すると溶断の恐れが高い。流動分散を使って支点にセットするのも考えものである。※ダイニーマとはポリエチレンを原料にした超高強度・高弾性の繊維で東洋紡の商標。ダイネックスあるいはスペクトラともいう。軽く、吸湿性が少なく凍結しにくいという利点もある。)
ダイニーマ(右) | ユマールとミニトラクションとプーリー |
■ ケブラー(Kevlar)ロープ
ケブラーとは米国デュポン社のアラミド繊維に対する商標。強度が高くФ5.5oでも17.6kNの強度があり、防刃繊維として良く知られている。(一般のクライミング用ロープはФ9oで15.9kN)、ただし伸びが全く無くアルカリや塩素・紫外線に弱い。Fixロープやラペル用(墜落率=0)に使用する分には軽量化に貢献する。衝撃が支点に直に加わるので、支点の信頼性が高いことが条件。間違っても通常のクライミング用ロープ(ダイナミックロープ)の代用として使用しないこと。最近はテクノーラ(帝人)やベクトラン(クラレ)やノーメックス(デュポン)と呼ばれる改良型の繊維が使われているようだ。
ケブラー(Kevlar)5.5o×50m |
■ ロワーダウン(Lower down)
ビレーヤーに確保された状態で、ロープにぶら下ったまま(トップロープの状態で)重力を利用してつるべ式に下降することをいう。この時、カラビナを使用せずに支点のスリングに直接ロープを通して下降すれば、ロープの摩擦熱によりスリングが簡単に溶断してしまうので厳禁。カラビナを残置するか懸垂下降すれば問題はない。
※英語の「Lower down」には単に「低い方に降ろす」という意味しかなく、広い意味ではクライムダウンも含まれるだろう。
■ 懸垂下降時の仮固定とバックアップ(Backup)
環付きカラビナを一旦通してからオーバーハンドノットを行い安全のためカラビナをかけておく。仮固定のし易いビルメンテ用の変形エイト環もいろいろ発売されている。
懸垂下降中に頻繁に作業が発生するような場合にはシャント(SHUNT)やプルージックなどのアッセンダー要素を組み合わせてバックアップを取っておくのが便利。手を放せば瞬時にロックし下降する時だけ操作する。フリクションも調整可能で極めて安全。環付き多目的カラビナ(フレイノ)があればより便利。シンチを併用すれば登り返しも可能になる。
シャント(SHUNT)を腰に近い位置に設置すると急斜面では非常にバランスが悪くなるなるので、シャントと共にフレイノをスリングなどで体から離した方が都合が良い。
エイト環の仮固定 | ルベルソ+シャント+フレイノ | |
↓ | 手を放せば常時ロック | |
↓ | シンチとシャントによる登り降り自在なシステム | |
↓ | フレイノを使ってワンターン | |
↓ | スリングでシンチを離せば操作性がより向上する | |
↓ | ||
仮固定の完了 |
■ ロープの繋ぎ目
ロープの繋ぎ目を越えて懸垂下降するには、長目のスリングをテンションの掛かるメインロープにフリクションノットで固定し他端をマリナーノットでハーネスに固定してテンションをスリングに移す。次に下降器を付け替えてマリナーノットを解除しテンションをロープに戻す。この時スリングが伸びて回収不能となるが、そのまま残置して後から回収しても良い。別のスリングをロープに沿わせておいてそれを引いて回収する方法もある。
渡辺輝男著『セルフレスキュー』山と渓谷社ではあらかじめムンターミュールヒッチやオートブロックなどを仕組んでおく方法が説明されているが、繋ぎ目が複数ある場合には対応不能か煩雑化する。
スリングにテンションを移動 |
下降器を付け替える |
マリナーノットを解除 |
別のスリングを沿わせておいて回収 |
■ プルージックの応用
フリクションノットを利用したのち、結び目が移動して手が届かなくなり補助ロープが回収不能に陥る例が多い。それを防ぐやりかた。補助ロープをプルージックと同じように巻いて、端部をロープに沿ってループの中を通して引き締める。プルージックのように上下同じ回数巻く必要はなく、上側の補助ロープは一回巻くだけでよい。堤信夫氏は「T式プルージック」と名付けている。
同じことを反対側から行い巻き数を省略したのが右の改良版である。作り方はいたって簡単で効果は変わらない。ロープの結び目を越えて懸垂下降する時や、宙吊り者の救助、懸垂下降中のトラブル発生時に応用できる。
T式プルージック | 改良版(簡易版) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | 左の補助ロープを引くとロックし、右を引けば動く | |
(改良版) | ||
↓ | ||
左の補助ロープを引くとロックし、右を引けば動く (T式プルージック) |
||
※写真の都合で短い補助ロープを使用しているが、 実際には1.5〜2mくらいの長さが必要。 |
■ バルトダン結び(Vartdan)
ロワーダウン時などにロープの長さが足りなくなり、別のロープを継ぎ足したい時に利用する。テンションの掛かったメインロープに、新たなロープを螺旋形に巻き付けてから前後をブーリン結びで繋ぐ。この時、緩く結ぶとロープの消耗度合いによっては効果に差が現れるので要注意。結んだ後、ロープをずらしできるだけ結び目を固く締め付ける。構造的にはクレムハイストノットと同じでありロープ同士のフリクションノットといえる。ヘリカルヒッチともいう。
似たものに「ポローネ」や「T式レインノット」がある。巻き数を増やせば効果は出やすい。ただし、これらを使用する状況にはなりたくない。スリングさえあればフリクションノットで仮固定しロープ同士はダブルフィッシャマンズノットで結ぶのが安心。(※ T式⇒堤信夫式)
バルトダン結び(Vartdan) | ポローネ(Pollone) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
結び目を固く締め付ける | 結び目を固く締め付ける | |
T式レインノット | ||
↓ | ||
↓ | ||
結び目を固く締め付ける |
■ ポローネ(Pollone)
スリングや専用のアッセンダーがない場合にメインロープと確保器を使って脱出する際に利用する。「ポロネ」または「ポーランド結び」ともいう。ロープ同士のフリクションノットであり固く締め付けないと効果が現れない。螺旋に巻く回数を増やせば効果は出やすい。
「ポローネ」や「バルトダン結び」と「インライン・フィギュアエイトノット」を組み合わせたものと、確保器を併用すれば、理論上はスリング二本あるいはガルダーヒッチやビエンテとスリング一本を使用した脱出と同様なことが可能。もし確保器もカラビナもスリングも無い状況で宙吊りになればお手上げであろうが、それでも腕力で数m登るかロープに余長があれば道は開ける。確保者がいる場合には、腕力で体を持ち上げ手を離した瞬間に確保者がロープを引く。これを繰り返して登る方法もある。(ポンプアップ)
ポローネ[ポロネ](Pollone) |
↓ |
↓ |
ポローネ[ポロネ](Pollone) |
■ ブレークノット(Blake's knot or Blake's hitch)
「ポローネ」や「バルトダン結び」と同機能で、ツリークライミングに多用されるのがブレークノットである。構造的には「ポローネ」に類似。末端はトリプルエイトノットで処理しスッポ抜けを防止する。ブレイクスヒッチあるいはオープンヒッチともいう。トリプルエイトノットは仲仕結びあるいはステベドア・ノットともいわれている。
ブレークノット(Blake's knot) |
↓ |
↓ |
↓ |
ブレークノット(ブレイクスヒッチ) |
■ インライン・フィギュアエイトノット(In line figure eight knot)
ロープに手掛かりを作る時に使用する。ロープワークでは同じことをしているつもりでも、うっかりしていると、つい「ニセモノ」ができてしまう。最初に手順を間違えると後では修正がきかない。一旦ほどいて初めからやり直すしかない。しかし機能的には大差なさそうだ。ディレクショナル・フィギュアエイトノット(Directional figure eight knot)ともいう。
インライン・フィギュアエイトノット | にせもの | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
(ディレクショナル・フィギュアエイトノット)ともいう | にせもの(機能的には差は無い) |
■ ブラッドノット(Braid knot)
ダブルフィッシャーマンズノットやトリプルフィッシャーマンズノットと機能的には同じである。ただしブラッドノットの方が荷重を掛けた後でも解きやすく、巻き数はいくらでも増やせる。
ブラッドノット(Braid knot) |
↓ |
↓ |
↓ |
ブラッドノット(Braid knot) |
■ ワイヤー南京(Wire nankin hitch)
ロープを強い力で引くときに利用する。機能的にはインライン・フィギュアエイトノットと同じで、輪が二重になっている所が違う。ロープの中間に手掛かりを作る時に使用する。ブーリン結び(もやい結び)の構造を利用してロープの中間に結び目を作る。このことを理解しておれば結び方を忘れることはない。
ワイヤー南京(もやい結びを利用する) |
↓ |
↓ |
↓ |
ワイヤー南京 |
■ 締め結び(Tracker's hitch)
トラックの荷台にロープで品物を結び付ける時やテントの引き綱を締める時の方法の一つとして「締め結び」がある。それを確実に行う方法としてインライン・フィギュアエイトノットの応用がある。ロープの中間にインライン・フィギュアエイトノットを作り、1/3引上げシステムの要領でロープを引き締め、端部を引き解け結びで処理する。後で解きやすくするには、捻りを多くしたインライン・ナインノットやインライン・トリプルエイトノット、あるいはトラッカーズノットを利用すれば良い。
インライン・フィギュアエイトノットの応用 |
↓ |
↓ |
■ バタフライノット(Butterfly knot)
ラペル(懸垂下降)時のロープの新しい結び方として「バタフライノット」が紹介されていた。利点としては結び方が簡単で間違えようが無いという点があげられ、注意点としてはロープの端部を25cm以上伸ばす事があげられている。ヤマケイ登山技術全書『フリークライミング』2005年6月20初版発行には、「最新かつ最良の結び方として海外雑誌に紹介されていたので・・・」とある。著者は、新井裕己・北山真・杉野保の三氏。(※間違いようがないといいながら、実はイラストではしっかりと間違っている)
ところが、その「バタフライノット」自体はロープの中間に輪を作る方法として昔から「ボーイスカウト」などで使用されており、その輪の先端を切り離せばラペル時に使用するという「バタフライノット」に変身する。結び方自体は最新ではない。中間支点のカラビナにセットする時はインクノットよりも信頼性が高い。ただしカラビナから一旦ロープを外してセットし直す必要がある。長さの調整を行う時には取り外す必要はなく、落石が非常に多い場所ではインクノットより安全。
ネットで動画を検索すればバタフライノット作成のさまざまな簡略法が見つかる。中には亜種も含まれるので注意。
ロープを結ぶとき | 中間に輪を作るとき | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
ラペル時のバタフライノット | ↓ | |
ラインマンズ・ノット(Lineman's knot)ともいう |
■ ミッテルマンノット(Mittelman knot)&イングリッシュマンズノット(Englishman's knot)
バタフライノットと非常に良く似たものにミッテルマンノットがある。結び目をチョット見ただけでは区別がつきにくい。これをバタフライノットとして紹介しているサイトもある。ミッテルマンノットは結び目を変形させるとイングリッシュマンズノットに変形してしまうが、バタフライノットはそういうわけにはいかない。
ミッテルマンノット(Mittelman knot) |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
イングリッシュマンズノットに変形 |
■ バレルノット(Barrel knot)
バレルノットもバタフライノットと良く似ているが、形状はやや異なる。
バレルノット(Barrel knot) |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
↓ |
バレルノット(Barrel knot) |
■ マリナーノット(Mariner's knot)&ムンターミュールノット(Munter mule knot)
セルフレスキュー時の仮固定として利用する。結びが簡単で解きやすい。メインロープの架け替え時などに利用し、多少荷重が残っていても解きやすいのが特徴。不安がある時は、スリングの末端に別のカラビナをセットしてスリングの直線部に掛けておけばよい。
ミュールノットは「ミューラーノット」または「ムンターミュールノット」ともいい、カラビナにムンターヒッチを行った上で引き解け結びを行う。機能的には「マリナーノット」と同じであるが、解除時の制動がより容易でスリングが若干短くて済む利点がある。「マリナーノット」との混合型ともいえる「ムンターマリナーノット」も考えられる。
マリナーノット(Mariner's knot) | ムンターミュールノット(Munter mule knot) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ムンターミュールノットの完成 | |
マリナーノットの完成 |
■ プルージックノット(Prusik knot)
アッセンダーの代用として利用し「巻き結び」ともいう。写真は「ブリッジプルージック」と呼ばれるもので、結び目を反対側に持って行き、その結び目よりも長くスリングを巻きつけるのがポイント。これにより、締まりやすく、かつ動かしやすいものとなり太目のスリングでも対応できる。いわゆるフリクションノットの一種。専用のプルージックコードや芯を詰めたスリングを用意すれば締り易い。
ただし人間は落下するときには、瞬間的に物を掴む反射反応(本能)があり、結び目の上部を握ると効果を喪失する。特に使用するスリングが長すぎる場合にこのような現象が発生しやすい。墜落時の衝撃で、ある程度のスリップは避けられないが、その時の摩擦熱でスリングが溶断してしまうという事故も発生している。荷重を掛けると、結び目が締まり過ぎて固着してしまうことも多い。(※ダイニーマスリングはしなやかで滑りやすく、取扱いしやすいけれども、融点が低いので適さない) その点、アッセンダー(器具)を使用すればトラブルはある程度避けられる。
ブリッジプルージック(Bridge prusik) |
■ スネークノット(Snake knot)
プルージックと同じ機能で「オートブロック」または「マッシャー」ともいう。ロープスリングでも可能。利きやすく、一端テンションが掛かった後でも動かしやすい(緩めやすい)のが特徴。フリクションノットの一種。
スネークノット(snake knot) |
■ バックマンorバッチマン(Bachmann knot)
カラビナと共にスリングをメインロープに螺旋形に巻き付けるフリクションノットの一種。機能はプルージックと同様。スリングに体重が掛かればロックし、カラビナを持ってスライドさせる。
バックマン(Bachmann knot) |
■クレムハイストノット(Klemheist knot)
「クライムヘイスト」「ヘッドオン」ともいう。スリングをそのままメインロープに巻きつけ、片方をもう一方に通して引く。構造上、引く方向が限定される。これのことを「バッチマン」という人もいる。
クレムハイストノット |
■ マッシャー(Machard knot)
スリングをメインロープに螺旋形に巻き付けてから、前後をカラビナで結ぶ方法。スリングが緩んでいると利きにくい。「オートブロック」ともいうが「オートブロック(Autoblock knot)」はフリクションノット全体を総称して使用する場合があり、今はこれを「マッシャー」と呼ぶようだ。
オートブロック⇒マッシャー |
※フリクションノットの名称は人により時代により相当混乱している。多くを憶える必要はなく実際に使用して好都合なものを選択すればよい。
■ オーバーハンドノット(Overhand knot)
「ストッパーノット」「かた結び」「止め結び」ともいう。いわゆる末端処理のやり方。「フィシャーマンズノット」の片側を指す。これを懸垂下降時に二本のロープを結ぶ処理として利用すると、ダブルエイトノットと同じく、結び目が反転(フリップ現象)して解けやすいので注意が必要。
オーバーハンドノット(Overhand knot) |
■ ダブルオーバーハンドノット(Double overhand knot)
オーバーハンドノットの巻き数を2回に増やしたもので、「ダブルフィシャーマンズノット」の片側を指す。「エバンス」「固め止め結び」ともいい、末端処理に利用する。三重になったものをブラッド・ノット(Blood knot)という。
ダブルオーバーハンドノット(エバンス) |
■ エバンスノット(Evans knot)
ループを作ってオーバーハンドノットで結んだものを「引き解け結び」or「スリップノット」といい、赤布を樹木の枝に結び付ける時などに利用する。緩く結んだ後で締め付ける。結び目に消費されるロープ長が少なくて済むのが最大のメリット。一番簡単なネクタイの結び方でもある。
ダブルオーバーハンドノットで同様にループを作ったものを「エバンスノット」といい、雪山のテント周辺をペグで固定する時などに利用する。雑木の枝をペグ代りに雪に埋め込む。(※凍結して掘り起こしが困難な場合が多く、実際にはこの部分は荷造り用のヒモなどを利用し切断する事が多い)、端部を引き解け結びにしておけばワンタッチで解除できる。支点としての利用も可。ただし大きな荷重が掛かった後では解きにくくなるから注意が必要。
引き解け結び(スリップノット) |
エバンスノット(Evans knot) |
エバンスノット&引き解け結び |
締め付けて完了(ワンタッチで解除可能) |
エバンスノット(Evans knot) カラビナは二枚使用するのが安全 |
■ ふた結び・ツーハーフヒッチ(Two half hitch)
テンションの掛かったロープの端部を結ぶときに利用する。写真では判り易いように緩く結んでいるが、実際にはロープを締め付けながら結ぶ。最初にラウンドターンを施せば信頼性を増すと共にその後の結びが容易になる。端部に引き解け結びを施しておけば後で解くのが容易になる。片手で結べるのが大きなメリット。
ふた結び(ツーハーフヒッチ) |
ふた結び&引き解け結び |
ラウンドターン&ふた結び&引き解け結び |
実際には締め付けながら結ぶ |
■ ミッドシップマンズ・ヒッチ(Midshipman's hitch)
ふた結び(ツーハーフヒッチ)の最初の巻き数を増やしたものがミッドシップマンズ・ヒッチである。これにも、ラウンドターンや引き解け結びを加えることが可能。立木など太いものに結ぶ時に有効。状況によって使い分ければ良いだろう。テンションが掛かっていても解きやすい。
ミッドシップマンズ・ヒッチ(ダブルツーハーフヒッチ) |
ミッドシップマンズ・ヒッチの応用 |
■ フローティングロープ(Floating rope)
フローティングロープ(Finetrack)の中芯はダイニーマで被覆はポリプロピレンである。水に浮き凍結しにくいとされる。ただし紫外線に弱いので注意が必要。
非常に軽いのが特徴であるが、それは乾いた時の話であって実際には濡れると繊維間に水を含み、まるで濡れぞうきんか濡れタオルのようにズッシリと重くなってしまう。これで凍らないといわれてもチョット信じ難い。伸びが全くないので補助ロープとしての利用に限定される。本来はスローバックレスキュー専用。
フローティングロープΦ6.5o破断強度1,100s | フローティングロープ(Finetrack) | |
スローバックレスキュー(漂流者に投げて利用する) | フローティングロープΦ6.5o×200m | |
■ ハンターズベンド(Hunter's bend)とツェッペリンベンド(Zeppelin bend)
世の中は同じようにしていても必ずしも結果が同じになるとは限らない。ハンターズベンドとツェッペリンベンドも非常に紛らわしい。良く似た亜種があり、説明が明らかに間違っているのではないかと思われる出版物もある。滑りやすいロープを結束するときに適すとされるが、重要な場面では使用しない方が無難である。
ハンターズベンド@(Hunter's bend) | ツェッペリンベンド@(Zeppelin bend) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
表側 | 表側 | |
裏側 | 裏側 | |
ハンターズベンドA(Hunter's bend) | ツェッペリンベンドA(Zeppelin bend) | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
↓ | ↓ | |
表側 | 表側(三次元対称形) | |
裏側 | 裏側 |
■ からみ止め(アメリカンホイッピング American whipping)
「からみ止め」はロープを仕舞う時に使用する。雪吊りや釣りにも利用し、結び目を中へ入れて端部を根元で切断すれば結び目が外部から見えなくなり、意匠を重視する場合に有利。ロープを仕舞う時は余った側のロープを多重オーバーハンドノット(Multiple overhand knot)で処理するか蝶結びで止める。
からみ止め(アメリカンホイッピング American whipping) | からみ止め+男結び |
■ ジャンピングセット(Jumping set)
手打ちのジャンピングセットを使用して岩に穴を穿つのは至難の業。時間も労力も掛かる。充電式ハンマドリルが便利。必要な穴の深さは微妙で、ある程度は試行錯誤で適正な深さを見付ける必要がある。
リングボルトの場合、穴が浅いとボルトが浮き上がりくびれた部分に応力が集中し強度が低下する。逆に深すぎるとクサビが効かず抜け強度が得られない。ウォールハンガーの場合、ハンガーとボルトをセットして打ち込めば穴が深くても支障はない。打ち込む場所が平面であることと、周辺を叩いて浮石でないことを確認してから作業を行う。
ジャンピングセット(Jumping set) | Φ8キリとリングボルト・RCCボルト | |
Φ10.5キリとウォールハンガー・グリップアンカー | 充電式ハンマドリル | |
石材用ドリルとアンカーボルト | 刃先はさまざま(超硬チップ使用が多い) | |
リングボルトの場合、深さは微妙である⇒試行錯誤 | ドリルで穴明け | |
ストローで切粉を噴き飛ばす(目に入らないように注意) | 根元までしっかり打ち込む | |
浅い(浮き上がっている)のは強度不足 ワイヤーをタイオフすれば使用可能 |
オールアンカーの場合、多少深くても可 | |
仕上がった穴 | ハンガーのセット方向(通常) | |
スパナで締めて完了 | ソロの場合、最初の支点のハンガーは逆にセットする (墜落の可能性の高い場所ではショックアブソーバー を入れる) |
■ リングボルト(Ring bolt)
リングボルトを打ち込む穴の深さは微妙である。穴が深すぎるとクサビによるボルト拡張効果が得られず、浅いと浮き上がり強度が得られない。適正な深さは試行錯誤で体得するしかない。浅い場合はワイヤーをタイオフする。
溶接もどのような開先を取っているのか分からず、ビートの肉盛もない。全数エックス線探傷機で検査してるわけでもないだろうから信頼性は低い。衝撃によりリングが変形しやすく、ボルト本体の径Φ12.7oがΦ8.0oまで急激に細くなっている部分に応力が集中し破断しやすい。墜落時の衝撃荷重を直接受ける可能性の少ないセルフビレーの支点や、懸垂下降の支点としては有効。
ボルトの根元はΦ8.0o(本体はΦ12.7o) | ボルトの先端ではΦ8.3o | |
クサビの呑み込み代は9.0o | クサビの余長は10.3o | |
クサビの先端の厚みは2.4o | クサビの根元の厚みは1.3o | |
ボルトの長さは18o | 溶接の外観(ビートの肉盛はなく開先は不明) |
■ RCCボルト(RCC bolt)
各部の寸法はリングボルトと似かよったものだが、ボルト自体の埋め込み深さは26.2oもありリングボルトの約1.5倍。応力集中やリングの変形・溶接欠陥などといった不安要素はない。ただし、埋め込み深さが浅いとアゴが効かずクルクル回転し扱いにくいものとなる。しかも所定の強度が発揮されず修正はきかない。したがってこちらの方も穴の深さは重要である。突出部が多く、人工の場合スタンスとして利用できる反面、フォールした時引っかかって危険というデメリットもある。
RCCボルトをノギスで測定 | ボルトの根元はΦ8.0o | |
ボルトの先端ではΦ8.3o | クサビの呑み込み代は9.5o | |
クサビの余長は10.5o | クサビの根元の厚みは1.3o | |
クサビの先端の厚みは2.4o | ボルトの長さは26.2o(リングボルトは18o) |
■ ウォールハンガー(Wall hanger)
ペツルのウォールハンガーにはΦ10oのものとΦ12oとがある。エクスパンションボルトあるいはグリップアンカー一体型のもの(クールグージョン、ロングライフ)と市販のボルトが使用可能なハンガー単体(クール)が市販されている。
市販のオールアンカーを使用する場合ボルトのみ先に打ち込んで、後でハンガーを取りつけようとすれば、ネジ山をつぶしたり穴が深すぎてナットが半掛かりになるなどのトラブルが発生する。組んだ状態で打ち込み、頭のピンは最後まで打ち込む。この時穴は多少深すぎても支障はない。(下穴の径や石質によってはピンが最後まで打ち込めない場合がある。) このほかに建築資材で良く知られている接着剤を使用するタイプのケミカルアンカー(コリノックス、バティノックス)がある。こちらの方は硬化するまで時間が掛かりレスキュー向きではない。
クール、クールグージョン、ロングライフ | ロングライフ、クールグージョン、クール |
■ ソロデバイス(Solo device)
クライミングはダイナミックロープを使用するのが原則であるが、各種ロープを使用してソロデバイスのロック状態を試してみた。(急斜面をトップロープで2〜3m登り、ズリ落ちてみた。)
ソロエイドとシャントは瞬時にロックするが、ソロイストは落ちる態勢によってはロックしない。グリグリは両手を放すとロックせず、フリー側のロープに手を添えてテンションを加えてやる必要がある。サイレントパートナーは緩い墜落(ズリ落ちる)程度のテンションでは全く機能しない。(車のシートベルトのロックと同様、強い衝撃・加速度が必要)
ロックの解除はグリグリが一番容易で、そのままハンドルを握ってフリクションを調節しながら下降すれば良い。ソロエイドやソロイストでは器具の上部にアッセンダーをセットして一旦テンションを抜いだ後、新たにカラビナを追加しラペリングを行う。シャントの場合はあらかじめロック解除用の穴にスリングを通しておいて、これに体重を掛ける。…ただしこの状態ではスムーズなラペリングは不可。
各種ソロデバイス | 各種ロープ | |
ソロエイドのカムに溝を掘る | ロープの納まりが良くなった | |
カラビナを追加してラペリングを行う | 簡易チェストハーネスも試してみる(変化なし) | |
ソロイスト(チェストハーネス必須) | ソロイストのカムには溝がある | |
サイレントパートナー(ズリ落ちる程度では止まらない) | インクノットでセットする | |
グリグリは両手を離すと止まらない(フリー端に テンションが必要) |
グリグリでラペリング(一番容易だ) | |
シャント(極めて細いロープでは効果は無い) | Φ6.5フローティングロープ(ダイニーマ) | |
カラビナを引くと逆向きにもロックする(表面が毛羽 だっているため) |
Φ5.5ケブラーロープ(ロックが弱くズリ落ちる) |
■ ソロエイド(Solo Aid)
ソロデバイスの一つとしてソロエイドがある。画像では非常に分かりにくいが、シングルロープでのアッセンダーの一種である。ロープをセットする時にピンを抜く(カムを外す)作業が発生するが、シャントよりも操作しやすい。シャントはダブルロープ対応で、ロープをセットする時に本体をいちいちロッキングカラビナから取り外す必要がある。ソロエイドにはその必要がない。
ロープを繰り出しやすく、かつわずかなテンションでも直ちにロックする。そしてコンパクト。使いようによってはソロクライマーの大きな武器となり得る。カラビナを追加することでディッセンダー(下降機)としても機能する。ショックアブソーバーと併用する。
ただし「ロープが新品で径が若干細かった。」というだけでロックしなかった。という報告もあることから、事前のチェックは必要。グリグリなどとも共通する現象だ。欠点といえるかどうか分からないが、ロープの前後にテンションが掛かっている状態では、構造上シャントやユマールと違って本体を移動させることはできない。
ソロエイド(Solo Aid) |
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ソロエイド(Solo Aid) |
■ シンチ(CINCH)
トランゴ(TRANGO)製のシンチ(CINCH)を行き付けの登山用品店で発見した。さっそく試してみる。ロープの径や引く速度に関係なく瞬時にストップしてくれる。グリグリと違って中にスプリングが仕組まれていないのでビレイにはコツがいるかもしれないが、両手を離しても直ちにロックする。ここの所がグリグリと違う点だ。(…ただし説明書によれば手を離してはいけない。) ソロにも使える。ラペル時には特別なことをしなくても、単にレバーを調節するだけでフリクションを自在にコントロール可能。(※ビレーに使用する時はロープ径がΦ9.6〜11oに限定されているので、これより細い場合は自己責任。)
ロープをセットする時には、本体を環付きカラビナから取り外し、上半分をスライド回転してセットする。ソロエイドのようにいちいちカムを取り外しセットし直す面倒さがない。しかもテンションが掛かっていてもレバーを操作するだけで下降が可能。他のディッセンダー要素と組み合わせて、シャントのようにバックアップとして使用すれば操作性が向上する。
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Φ9oの場合 | テンションが掛かればロックする | |
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ケブラーΦ5.5oの場合 | ロープ径が極めて細くても一応ロックはする。 …ただし時々ズリ落ちるので勧められない。 |
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ダブルをシングルに | インライン・フィギュアエイトノットを使用すれば、 ロープの回収がスムーズ |
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懸垂下降のバックアップとしても利用可 | 懸垂下降のバックアップとしても利用可 |
■ シンチ(CINCH)を使用した登り降り自在なシステム
山菜採りなどの場合、急斜面を自在に登り降りしたいという要求が発生する。懸垂下降や登り返し(自己脱出)、引上げといったシステムは良く知られている。しかしながら懸垂下降中のトラブル(ロープ長さが足りないとか、適切な中間支点が得られないなど)で急遽登り返しが必要になることもある。また最初から偵察目的で登り降りする場合も多い。引上げ途中で障害物を避けるために、一旦ロープを緩めたい場合もある。
そのような場合にシャント(SHUNT)とシンチ(CINCH)を利用すれば目的がかなえられる。登る時はシャントをずらしながら1/3システムで登り、下る時はシンチのレバーを操作しフリクションを調整しながら下れば良い。クライミングウォールのメンテナンスやクリーンニグ時にも利用できるだろう。ただし傾斜の緩い斜面に限られ空中懸垂には適用できない。
シンチを使った懸垂下降(軸に親指を添える) | シャントをずらしながら1/3システムで登る | |
シンチ(CINCH)で下降のフリクションを調整 | シャントとシンチによる登り降り自在なシステム | |
フレイノを使ってワンターン | スリングでシンチを離せば操作性はより向上する | |
リボルバーを使用すればプーリーが省ける |
■ 携帯用の電源
冬山(氷点下)で必要なのは「リチウム電池」を使用するタイプである。他のものは使い物にならない。これは携帯電話だけでなく、ライト・カメラ・GPS・無線・ラジオなど総ての電源について該当し、予備電池はふんだんに持ちたい。ヘッドライトなどはホームセンターで性能の良いものが手に入る。
携帯電話用の予備電源 | LEDライトとGPS | |
超高輝度 ELPA DOP-XRE301 全長8p 60g | 超高輝度 ELPA LEDヘッドライト 3W 110g |
参考⇒ピット・シューベルト著『改訂版・生と死の分岐点』『続・生と死の分岐点』山と渓谷社、堤信夫著『全図解クライミングテクニック』『全図解レスキューテクニック』山と渓谷社、菊地敏之著『最新クライミング技術』東京新聞出版局、渡辺輝男著『セルフレスキュー』山と渓谷社